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Medical Movies Monologues: 医療映画・ドラマの呟き (2月)
今月の映画:私の中のあなた
昨年(2011年)8月のコラムで『ガタカ(GATTACA)』を取り上げた折に、「近未来のデザイナーベイビー」云々と呟きましたが、あれは嘘でした。こらえてください。
デザイナーベイビー的な子供たちは現実に既に存在しています。たとえば、今月の映画『私の中のあなた』(2009)の主人公であるアナ・フィッツジェラルドのような子供が。
11歳のアナは生まれてこなかったかもしれない子供でした。と言うのも、彼女は計画的に作られた子供、白血病に命を脅かされた姉のケイトのドナーとしての適合性を持つべく人工受精で、姉妹の母であるサラが生んだ子供だからです。(映画の中では詳しい手順についての描写はありませんが、人工受精後、検査をしてドナーとして適格な受精卵を子宮に着床させるというやり方となります。)
そして、生まれてすぐに臍帯血を提供した時から、アナは姉のケイトの救い手として、ケイトのためのドナーとして存在してきました。ケイトが病気になって以来、両親と兄と姉妹の五人家族は協力し、支えあいつつ、それぞれの人生を生きてきましたが、それでも、重病人を抱えている以上、彼女が家族の中心になってしまいます。特に母親であるサラにとっては、「まずケイト、それから他の家族」という優先順位になってしまうのはいたしかたのないこと……なのか。失読症であるのに両親から充分なサポートを得られず、学校をドロップアウト気味の兄ジェス、ケイトのドナーであるために生活が制限されてしまう妹のアナ、そして夫であるブライアン。ケイトの命をつなぐために必死な母サラを見る三人の表情は時に寂しげです。
映画の冒頭で、ケイトの病気は悪化しており、腎臓移植が必要な状態になっています。ドナーはもちろん妹のアナ、の筈でした。彼女が弁護士を頼り、自分の身体のことを自分で決める権利の保障を求めて、両親を訴えるまでは。
移植手術が出来なければ、ケイトは死ぬ。だから、アナはおとなしく腎臓を提供すべき?
重大な意思決定は出来ない年齢であるとして、両親の同意のもとに姉に身体の一部を提供し続けてきたアナ。移植手術をすれば、アナは腎臓まで無理やり奪われてしまう。だから、アナの身体にはこれ以上メスを入れず、ケイトを死なせるべき?
こうして、アナと母親のサラは裁判で争うことになり、移植手術が出来ないまま、ケイトの病状は悪化していきます。はたして、アナは自分の身体を守るために姉を死なせてしまうのか……と、そのあたりはご自分で映画をご覧になって、お確かめになってください。
この映画、『私の中のあなた』の原題は『My Sister’s Keeper』。
「keeper」とは、「守り手、番人、監視者、付き添い」と言った意味ですが、平均的な欧米人はこの単語から旧約聖書の創世記の逸話――アダムとイヴの長男カインが次男のアベルを殺し、神にアベルの行方を問われて、「私は弟の番人なのですか?」と答えたという話を想い起こすでしょう。兄弟姉妹の「keeper」とは「兄弟姉妹を殺した者」の隠喩であると言えます。「My Sister’s Keeper」というタイトルは、つまり、姉妹であるアナとケイト――二人のうちのどちらかがもう一人の命を奪うということを暗示しているわけです。
(ネタバレ。原作小説ではタイトルの暗示通り。映画は原作小説とは結末が違うので、どちらかと言えばミスリード。原作小説のファンたちは結末が変わったことに激怒して、映画をボイコットした、なんて話もあります。)
日本版のタイトル『私の中のあなた』は、原題の直訳ではなく、物語の内容からつけられたものですね。原作小説の日本語訳本のタイトルも『私の中のあなた』となっております。その意味するところは……原作小説と映画を実際に読んで/観て、ご確認くださいね。

『私の中のあなた』は実話ではありませんが、原作小説(Jodi Picoult著)が出版され、ベストセラーとなった2004年の少し前、2002年には<兄弟姉妹を救うためのデザイナーベイビー>を作ることをある家族が求め、認可されるということが英国で起きています。(このHashmi家の話はBBCのサイトで読むことができます。)
(ちなみに、2010年の映画『Never Let Me Go (わたしを離さないで)』の原作であるKazuo Ishiguro の同タイトルの小説が発表されたのが2005年。『The Island (アイランド)』が公開されたのも2005年ですね。やはり米英ではこの頃に生殖医療の問題がクローズアップされていたのかもしれませんね。両作品とも決してネタバレをしてはいけない類の物語なのでこれ以上詳しくは触れませんけれども。)
現在、こうした兄弟姉妹のドナーとなるためのデザイナーベイビーについては、米国では黙認状態、英国ではHashmi家のケースのように倫理委員会のようなところで審査して認否していたものが、2008年に「human fertilisation and embryology bill(ヒト受精・胚法)」の改正案が通って、どうやら完全に合法化されたようです。(参考資料:ガーディアン紙のサイト。)
こうした<兄弟姉妹を救うためのデザイナーベイビー>のことを、”Savior Sibling”と呼びます。「Savior」とは「救う者」。「Sibling」とは「(男女の性別にかかわらず)兄弟姉妹」のこと。日本語では直訳風に「救済者兄弟」とか「救世主兄弟」とか訳されているみたいです。(「姉妹」はどこへいった?)
(2010年(3月28日)にNHKスペシャル「人体“製造”〜再生医療の衝撃〜」でsavior sibling が取り上げられた時には「救世主兄弟」と訳されたようです。)
もちろんこれは生命倫理に関わる問題となります。Savior Siblingとして生まれたデザイナーベイビーが兄や姉を救うのはまぁ良いとしても、そのSavior Siblingたちを誰が救って、守ってくれるのかなぁ……?と思う一方で、白血球のHLA型が一致する可能性は同父母の兄弟姉妹で25%……だったら、親は子供を救いたいわけだし、25%の可能性にかけて弟妹を生むよりは人工受精の方が効率が良いですね、と思ったり。筆者ごときが少々悩んだところで誰にとっても良い結論などは出るはずもなく、「腎臓を取りあげるのはやりすぎだけど、とりあえず臍帯血の提供ぐらいだったら良いんじゃないかな」というヘナチョコな意見ぐらいしか出てこないのでした。
ともあれ、米英では既に生み出されている Savior Sibling たち。
日本の医療が彼らのような子供たちを生み出すことを認めるのか否か……は、今後議論されていくことになるものを思われます。
「泣ける映画」を高く評価したり、泣くために映画を見るようなことは、正直言って筆者の好むところではないのですが、この映画はかなり泣ける映画です。闘病の物語ですが、深刻なばかりではなく、生を楽しむ明るさと輝きを見せてくれます。登場人物たちは決して完璧ではなく、綺麗ごとばかりではない物語ですが、悪人と言えるような人物は登場しません。(物語の視点がめまぐるしく変わり、回想も混じるので、物語を読むという行為に慣れていない人には少々難しいかもしれません。)
母親のサラを演じるのは『シュレック』シリーズのフィオナ姫の声優としても有名なCameron Diaz、ラヴロマンスの主演作が多い彼女もこれが初の母親役だとか。ほとんどすっぴんのノーメイクで、娘の病と闘う母親を説得力たっぷりに演じています。ケイト役のSofia Vassilievaも白血病の患者役として、髪を剃り、目の下にクマを作るメイクアップで役作りをしています。(母親役の人がちゃんと母親のように見えたり、病人役の人がちゃんと病人のように見えるということは当たり前のことですが、大事なことですね。)
監督さんはNick Cassavetes。少し前にとりあげた『ジョン Q』の監督さんでもあるカサヴェテス監督の、現在のところの最新作になります。カサヴェテス監督の『きみに読む物語(The Notebook)』(2004)も医療系の映画と言えるので、この方面に強い関心を持っている監督さんなのかもしれません。
日本版DVDはハピネットから出ていますが、英語字幕がついていないんですよね。結構、医療の専門用語も出てくるので、英語字幕付きの方が良いのですが……残念。
米国版はDVDとブルーレイが出ていて、どちらも英語・スペイン語の字幕付き。ブルーレイなら米国と日本のリージョンは同じなので、米国版ブルーレイを入手する手もあると思います。
(板倉宏予)
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