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Medical Movies Monologues: 医療映画・ドラマの呟き (1月)
今月の作品:ジェイミーのスクール・ディナー
今月のコラムのキーワードは「食育」です。
……と、今、「しょくいく」を変換したら、筆者のPC内のIMEが古いせいか、「食育」という漢字がすんなりと出てきませんでした。かなり新しい言葉なのかもしれないですね。
それはさておき、「食育」と言えば、大きく関わってくるのが「給食」とお弁当。心身を育てる学童期の食事の1/3 を占める、食生活の大事な一部分です。
さて、この大切な食生活の一部であるお弁当……特に、日本のお母さん・お父さんの作るお弁当が最近、海外で話題になっています。不景気の影響もあってか、安価で栄養のある日本のお弁当が注目されているようで、Youtube にupされた日本のお弁当を紹介する幾つもの動画には「お母さん、僕を(私を)養子にして」というコメントがつけられていたり、BBCでとりあげられた時には「これは一種のアートだ」と絶賛までされていたり。(http://www.bbc.co.uk/news/magazine-16069217 (動画あり)) なかなかの高評価を得ています。
日本の親が作るお弁当が人気なのは、欧米の「お弁当 packed lunch」が栄養的にも見かけ的にも貧しい場合が多いからでしょう。アメリカやイギリスのpacked lunch という名で売られる<スナック菓子の詰め合わせ>と比べれば、日本のコンビニ弁当もご馳走に見えます。公立の学校の給食も加工食品やジャンクが多く、特に米国の場合、資金の問題でファーストフード・チェーンが教育費寄付の見返りにキャンパス内に出店するというケースが多く見られ、子供の食生活に大きな影響を与えています。(この各ファーストフード・チェーンの企業戦略については、ファーストフード関連書籍等をご参照ください。)
さて、そこで紹介するのが、今月のお薦めDVD、英国の学校給食の改善を目指した有名シェフの活動を追ったリアリティ・ショー『ジェイミーのスクール・ディナー』(2005)です。(リアリティ・ショーですから、ノンフィクションですよ。)
主役となるのは、英国の若き有名シェフ (celebrity chef)、ジェイミー・オリヴァー (Jamie Oliver)。1975年生まれで、1998〜99年からBBCの『裸のシェフ (Naked Chef)』という料理番組がシリーズ放送されて、若くして有名な人気シェフとなった彼が、祖国の学校給食の改善などという苦労ばかりの活動に乗り出したのは、彼が結婚し、子供に恵まれたことがきっかけでした。ふと、自分の子供たちが将来通うことになる学校のことを考えた時に、学校給食のことが心配になった、と言うのです。子供の幸福のためなら、親は製薬会社だって立ち上げるし、TVで学校給食改善のリアリティショーを放送したりしてしまうものなんですね。
当時、英国の学校給食は、ロンドンの中学校の場合一人あたり80円程度という乏しい予算しか割り当てられず、加工食品とジャンクが中心の栄養的に貧しいものとなっていました。国に金がなく改革の意思もなかったので、有名シェフのジェイミーが自ら改革に乗り出すことにしたのです。もちろん、TVでその顛末を追ったリアリティショーを放送するという形で、マスメディアの力を後ろ盾にしての活動ですから、単なる一般人の親が「学校給食を改革しろ」と叫ぶよりは、よほど力があるというわけ。それでも、まずは小さいことからコツコツと……というわけで、ジェイミーはロンドンのとある中学校と統計上英国で最も不健康な州であるダラム州のある小学校に乗り込み、給食メニューから加工食品を駆逐し、栄養的に優れた温かく調理した給食を子供たちに提供することを目指します。彼に立ち向かうのは、ジャンクも提供する給食業者、雀の涙のように少ない政府の給食予算、そして、ジャンクが大好きで長ネギとタマネギの区別もつかない子供たち自身。給食のおばさんのボスであるノーラさんのサポートこそ勝ち得たものの、はたしてジェイミーは強敵たちに打ち勝ち、マトモな給食を英国全土の子供たちに提供できるのか――その顛末は実際にご自身の目でご覧ください。

上記は、英国の小学校で実際に子供たちが給食として食べているもの――足の形に似せた体不明の白身魚の揚げ物や第二次世界大戦後直後を想い起こさせるスパムなど――を見たジェイミーがTVカメラに向かって口にした独白です。「このままではうちの子を公立学校に行かせるわけにはいかない」とまで、ジェイミーは言います。
英国の貧しい地域の子供たちの中には、一日に一度、給食だけがまともな食事の機会だという子供もいると、番組の中でジェイミーに対して親自身が告げます。そうした子供たちの家庭では親がいなかったり、料理をする時間や能力がなかったりで、朝も夜もジャンクフードが中心の食事となっているわけです。その上、給食までジャンクフードでは、そうした子供はほぼジャンクフードしか食べたことがないことになるわけです。実際、ジェイミーが赴いた小学校で、チキンを食べたことさえなくて、チキンを食べることを頑なに拒む子供や、ジェイミーの考案した給食を食べて、「僕、サラダを食べたの初めて」とジェイミーに告げる子供など、(貧困地域とは言え)英国の子供の食生活の歪みを背負った子供たちの姿を番組内で見ることができます。
このような食生活をしてきた子供たちの中には食物繊維の極端な不足のために「排泄物が下から出れずに口から吐き出される」ほどの便秘を抱えている者もいるということを、ジェイミーに対して小児科医が告げるシーンも見ることが出来ます。そうした子供は将来結腸癌になる可能性があることも、専門家に告げられて、ジェイミーは知っていきます。このような、ジャンク中心の食生活がどれだけ子供を壊しているかを専門家がジェイミーに告げるシーンが番組中のあちこちに散りばめられており、この子供の食生活の問題が深刻であることが自然と視聴者に伝わるようになっています。
日本の子供も(大人も)ジャンクフードが好きですが、欧米の子供たちのジャンク好きとは比べものにならないでしょう。朝・昼・晩と、カップラーメンとポテトチップスを食事代わりに子供に食べさせるような親を日本人は「マトモな親」とは見なさないと思います。(概ね、日本人の食事に対する執念は素晴らしく強いものですから)。
……と、たった今、筆者はジャンクを「食事代わりに」と書きました。おわかりでしょうか、筆者の頭の中では「ポテチはご飯じゃない」という認識があるようです。根拠は何もありませんが、「「ポテチはご飯じゃない」と考える筆者のような人間は日本人の中では多数派であろう」と、筆者は考えています。ジャンク菓子を詰めただけのpacked lunch がお弁当になってしまう英国(及び米国)と、時にアート性まで見出されるようなことさえあるほどのお弁当をお母さん・お父さんが作ってくれる日本。別に勝ち負けを競うようなことではありませんが、平均的な子供の食生活では日本が圧勝していると筆者は思います。そして、筆者は、子供の頃にお弁当を作ってくれたお母さんに感謝し、まともな学校給食を提供してくれた政府に対して、「私は日本に生まれて良かった」としみじみと思うのでした。とにかく日本の食事は美味しいですからね。
ジェイミーの給食改革活動はリアリティーショーの放送終了で終わることはなく、その後、シリーズの終了後に再び給食改革活動を行った中学校と給食のおばさんのノーラを訪ねる番組『Jamie’s Return to School Dinners』も放送されました。(この放送のDVD商品はありません。)また、2010年には米国に進出し、米国で統計上一番不健康な町であるWest Virginia州のHuntingtonに赴いて、人々の食生活の改善に乗り出す『Jamie Oliver’s Food Revolution』というリアリティショーのシリーズが米国のABCで放送されました。このシリーズは、第1シーズンについてエミー賞で「Outstanding Reality Program(優秀リアリティーショー」」を獲得するなど、評価はかなり高かったのですが、残念ながら第2シーズンで打ち切りとなりました。(第2シーズンの視聴率はあまり良くなく、またスポンサーの受けが悪かったとの噂です。)DVD・ブルーレイでの販売が待たれます。
『ジェイミーのスクール・ディナー』の日本版は、DVD Box 2枚組で、日本語字幕と英語字幕がつき、日本語字幕の出来も悪くなく、お薦めできるものでしたが、残念ながら既に絶版扱いとなっているようです。(それほどのプレミアはついていないようなので、中古で手に入れるのは簡単だと思われます。)英国版DVD Box はまだ発売中で、現在、かなり値段が安くなっているので入手もしやすそうです。あとはCSでの放送に期待でしょうか。
21世紀初頭の英国の子供の食生活・食育の資料として、また単に優れたノンフィクション作品としてお薦めですので、機会がありましたら、ぜひご覧ください。
(板倉宏予)
●今月のお薦め

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